海南人は料理の分野が得意で、英国領であったマレーシアやシンガポールではイギリス人のお宅でお抱えのコックとして働き、そこで洋食の調理を身に着けた、という話がある。そこから生まれたのが海南華人式の洋食だという。マレーシアのコピティアムと呼ばれる喫茶軽食食堂には海南華人によるものが多く、そこでは特にポークチョップなどを目にすることが多い。そういったラインナップの一部はタイでも見たことがあったから、海南鶏飯のようにマレー半島から伝わったものなのだと思っていた。だけど、タイ語で書かれたものを読んでみると、西洋人が多い上海で海南人がコックとして活躍し、その一部が後にタイにやってきた、というような話が出てくる。雇い主であるイギリス人と一緒にそもそも料理人としてやってきた人たちもいたようだ。他にラマ5世、ラマ6世の時代(日本の明治、大正時代)に進められた近代化の影響でタイに洋食が伝わったという文脈もあるらしい。元々洋食の調理を身に着けていた海南人がタイへやってきて、食堂などで一般に洋食を提供するうちにニーズに合わせて現地化していった、というような感じなのだろうか。海南人が洋食を提供する食堂は、タイではクックショップ(กุ๊กช็อป)と呼ばれたそう。クックショップの多くは戦後かその少しあとに開業している。しかし、中には100年近く前から存在するお店もあり、その成り立ちはやはり様々であるのかもしれない。現存するクックショップはどこも老舗で、すでに数えるほどしかない。
旧市街ナンルーン界隈は海南華人の匂いのする一角だ。その手の洋食やお馴染みの海南鶏飯、海南スタイルのタイスキ、それからいわゆる海南ヌードルを扱う食堂がいくつもある。海南華人といえばコーヒーを扱ったことでも知られているけど、この界隈にはタイでは絶滅寸前の昔ながらのコーヒーショップもある。そしてこのフアヒンポーチャナーもまたいかにも昔ながらの中華系タイ人の食堂という、ノスタルジックな感じのする食堂だ。
ここの牛タンのシチューはトマトの風味が強く、タンがとてもやわらかい。この数日前にも食べたのだけど、おいしかったからもう一度食べに来た。味がしっかりしているからごはんによく合う。カリッと揚げたタイプのオースワンも牡蠣の風味が濃厚でおいしい。食後は自家製のココナッツアイスクリーム。これも昔ながらの食堂の定番だ。満腹のおなかをさっぱりと締めるのにちょうどいい。
牛タンのシチューごはん 70バーツ(約280円)、オースワン 130バーツ(約520円)、ココナッツアイスクリーム 35バーツ(約140円)
華欣餐室 หัวหินโภชนา
フアヒンポーチャナー
10:30~19:30 第2、4日曜日定休
2023年4月30日12時頃に訪問